結構有名だと思うが、諸星大二郎に最大の影響を与えた地上最強の学者白川静のエピソード。漢字の起源を研究するのに、当時の金文(青銅器や骨に記された文字)を片っ端から書き写して、当時の人間の魂を自分に乗り移らせてトランス状態になって理解するという途方もない研究の仕方で「字統」「字通」というものすごい漢和辞典を編集した白川静に、あるとき「UNICODEに反対する団体」が対談を求めた。ご存知の通り、UNICODEは(正確にはそのうちのUFT-8という体系)日本の漢字と韓国の漢字と中国と台湾の漢字をいっしょくたに扱うぞんざいなコード体系でアジアで評判が悪かったのだが、対談にかつぎだされた白川静は一言「漢字なんて4000字もあれば十分です」。回りはみんなずっこけ。かつぎ出した方は、漢字護持論をぶってくれると期待したのだと思うけど、それに対してこの一言。この人が漢字研究をしたきっかけが、もともと「万葉集」志望で、万葉を研究するには当時のアジア情勢を完璧に知る必要があるからだったとのこと。10年ぐらい前に「そろそろ万葉の研究に取り掛かってもいいかな」と言ってたが、その時点で漢字研究で40年ばかり経過していた。何とも気の長い話だ。水木しげるとどこか通じるものがある。