ベクトルといえばテンソルということらしいが、まだカネゴンの理解を遥かに越える。テンソルといえば思い出すのが、吾妻ひでおの漫画にもよく引用される、ベスターの小説「分解された男(The Demolished Man)」に登場する傑作CMソング

もっとひっぱる いわくテンソル
もっとひっぱる いわくテンソル
緊張 懸念 不和が来た

である。今回初めてもとの歌詞が判明。素晴らしい邦訳だと思う。今見れば、エイドリアン・ブリューが書きそうな詞に見えないこともない。

SF者の常識らしいので今更書くのは気が引けるが、これは未来のCMソングの作曲家が、あまりにもメロディが陳腐なせいで(一度聞くと永久に頭音として固着してしまうほど)没にした曲の歌詞で、この曲をよりによって「テレパシーで心を読まれないための妨害頭音」として利用するというシーンがある。小説の主人公(だかそうでないんだか)は、心を読まれそうになるとすかさず「もっとひっぱる...」を頭で回すのだ。カネゴンには何となく「すっちゃっか ぱらりらっぴ」という「すげこまを讃える歌」のイントロが聞こえてくるような気がする。

その「分解された男」を読んだとき、何かに似ていると思ったら、風忍の最強漫画「地上最強の男 竜」だと気付いた。ストーリーはこれっぽっちも似ていないのだが、「個々のモチーフが破綻しまくっているにもかかわらず、なぜか成立していて、しかも面白い」ところが似ているのだ。「地上最強の男 竜」は最初ギャグ漫画として構想されたにもかかわらず、少年マガジン編集者のてこ入れによってまるで正反対の、壮絶な「各論破綻・総論絶句」な漫画に仕上がってしまった。今後二人をそれぞれ「SF界のエリック・サティ」「漫画界のバート・バカラック」と呼ぶことにする。

「分解された男」のあとがきには、当時あまりの衝撃のためベスターを真似した破綻SFが死ぬほど量産されたが、誰一人真似できずに絶滅してしまったと書いてあった。ついでながら、ベスターは三流コミックの原作者出身で、その後不遇な人生だったとのこと。作品数も極めて少ないところまで似ている。まさか時空を越えて日本でベスターを継ぐ者が現れようとは。何にしろ書こうと思って書けるものではなく、真似すると怪我するとはこのことなり。理性をもって臨むことも虚しき。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏