キース・ジャレットというジャズ・ピアニストが、その昔「ケルン・コンサート」という、ある種一休さんのトンチのようなピアノ演奏のLPをリリースして一世を風靡したことがある。派手なテクニックをわざと封印し、勘のいい素人が弾いたような素朴な演奏。当然ながら全然ジャズではなく、一般にマニアが軽蔑的なニュアンスで使う「カクテルピアノ」のイメージを逆手に取って、あえてそのように演奏したところが凄いと思う。これは最初に思いつくのは大変なのだけど、それを真似して弾くのは極めて簡単なのが特徴。 「ケルン・コンサート」のファンと、キース・ジャレットのハードなジャズのファンがこれっぽっちも重ならないのが生態学的に興味深かった。今から思えば、この路線ならフリードリッヒ・グルダが演奏したドアーズの「Light my Fire」の方が断然出来がいい。

恥ずかしながら、カネゴンが繭(高校生)のとき、何をどう弾いてもケルン・コンサートみたいになってしまった時期があり、その影響から逃れるのにえらく苦労した覚えがある。カネゴンは暗示に極めて弱いのでなおさら。当時のビジュアルSF雑誌「スターログ」にまで、何故か「誰でもピアノが弾けます」という単発企画があって、そこでもケルン・コンサートが参考に挙げられていた。当時このページを見かけて、えらく恨めしかったのを思い出す。

人づてに聞いただけなのだけど、あのタモリの必殺技に「チック・コリアのピアノの真似」「バッハの真似」というのがあり、絶品だそうだ。「徹子の部屋」で披露したとのこと。何らかの形で、ケルン・コンサートと関係があったのではないかと想像している。