コンピュータの発明」読了。膨大な文献にあたり、コンピュータ史における数々の勘違い(チューリングがコロッサス暗号解読装置を発明したなど、義経が大陸に渡ってジンギスカンになったレベルの話も含む)を是正すべく書かれた本で、解析機関の歯車図やENIACのマシンコードやアーキテクチャを掲載するなど、刺激に満ち満ちている。ヒデキ指数=94。図がしょぼいのと誤植が目立つのが残念【感謝が足りぬおれカネゴン】。やはりエンジニアリングの基礎は歯車であることを再認識させられる。歴史上のこぼれ話も豊富で、関係者必読の名著。

本書によると、今日のストアド・プログラミングの元祖は英国のEDSACにあるという(「ノイマン型」は今や不適切なのだそうだ)。そしてコンピュータに初めてOS(というよりローダー)やインデクシングが装備され、それまで数値計算のことしか念頭になかったコンピュータが初めて文字などの数値以外のデータも処理できるようになった(汎用)という点でEDSACを高く評価している。一方有名なENIAC真空管こそ使ってはいるけど、機械式計算機を強引に電子化したものであり、最大の貢献は当時としてはダントツに速かったことを挙げている。そしてバベッジの解析機関も、実装できなかったとはいえ、今日のコンピュータの基本構造を備えていてプログラマブルであったという点も高く評価している。

ナチス政権下のドイツでズーセによって独自に開発されたZ1号 ̄Z4号(Z3号までは設計図も含めて連合軍の爆撃で破壊された)の話も凄い。最初に2進数と浮動小数点を採用し(当時はENIACなども含めて皆強引に10進数で処理していた)、リレー式ながら戦前における完成度の高いコンピュータだったにもかかわらず、発表が遅れ、後のコンピュータに何の影響も与えていない(現在使用されている2進数は、ベル研究所の成果がもとになっているらしい)という悲運のマシン。

あのノイマンを「問題を正面から解決する能力のない人物」と断じ、現場のエンジニアにとっては邪魔者であり、唯一の貢献は「非線形微分方程式を解かせる」という当時のコンピュータのスペックを遥かに越える要求を突き付けたことによって進歩を刺激した程度とまで言い切っているのは、著者がエンジニアだからというのもあるかもしれない。EDSACが成功したのも、ノイマンの邪魔が入らなかったからではないかとのこと。数学者とエンジニアが違う人種であることを痛感。もしかして問題解決ができなくても生きていてよいのでしょうか【一緒にするなとおれカネゴン】。

意外な拾い物は、バベッジの解析機関の章で、差分(difference)と微分(differential)の違いと関係について明確に説明し、しかも実装につながる説明であること。英語圏ではdifferenceとdifferentialの語感が似ていて間違われやすいともあった(日本語は訳語が違っているので救われている)。これまでこういうことを説明してくれた本にカネゴン巡り合っていなかったので感激。カネゴンの中で何かが一つにつながったような気がする【いつもそう言うおれカネゴン】。工学は実装につながらないものに価値を見出さないことを痛感。