愛して止まない岸田森だが、当然のことながら一般への認知度は極めて低い。演技に対する情熱と技術は本当にすごいのに、彼ががんばればがんばるほど、特撮ファンしか反応しなくなってしまっていた。岸田森は、特撮ファンのリトマス試験紙として統計的に有意であり、試験される人が自覚的であるなしにかかわらず潜在的に特撮ファンであることすら検出できるほどだ。

彼が亡くなったとき、その知名度と裏腹に大物スターが続々と葬儀に詰め掛けて、思わずワイドショーで特集されたということもあったらしい。そんなことでもなければ彼を知ることもなかった人の方が圧倒的に多いのが自然だろう。演技についてはド素人のカネゴンだが、何と言うか、これほどの技術を持ってしても、絶対に一流になれない「何か」があったのだと思う。それだけに晩年の岸田森は痛ましい。

この人は、本当は半端でなく不器用だったのではないか。健さんの「不器用ですから」の比ではない、普通に生きるのにすら差し障りがあるほどの不器用さ。なぜか客の目を惹くが、芝居全体をぶち壊しかねない行動に出てしまうデンジャラスな存在という意味では、実は左 朴全に近かったのかもしれない。彼らは、したくてぶち壊すのではない、本当にそれしかできないのだ。

秋の夜長にふさわしく、ちょっとしんみりしてみました。