1年半ほど前何かのはずみで(四次会ぐらい)、大学の大OB(50代)B氏が住む新宿駅南口にほど近い高級マンションにOB・知人多数と転がり込んだことがある。B氏は音楽関係者で、おととい書いた「どうやって食べているのか全くうかがい知れない人」というか、勝新にも似たカリスマといかがわしさを湛えた、ちょっとお目にかかれないタイプ。そのB氏の話が何とも面白くて、彼の話術(これで口説かれたら大抵の女性は陥落するだろう)がないとその100分の1も伝えられないのだが、できるだけ思い出してみる。話下手のカネゴンのこと、支離滅裂になること確実なのだが。

B氏は仕事盛りの頃突然母親を亡くし、葬式の時にたまたま出会った霊能師に「天川に行きなさい」と出し抜けに天啓を受ける。天川とは、後で調べたら奈良県の山奥深くにある「天川弁財天神社」のことのようだ(天川神社という名前だと全国あちこちにあるので)。

カネゴンはよく知らないのだが、この天川、オカルト愛好者と伝奇小説マニアの間ではものすごく有名なところらしい。何でも、「縁がない人」はどんなに頑張ってもこの神社には決して辿り着けず、無理に行こうとすると必ず途中で気分が悪くなったり、季節外れの大雪が降ったりして行く手を阻まれるのだそうだ。そしてこの神社、スティービー・ワンダーハービー・ハンコックなどがわざわざお参りに来るほど音楽に霊験あらたかなのだそうだ。ということはきっと細野晴臣も来たに違いない。あの人こういうの好きそうだから。

かくしてB氏も、季節外れの大雪に一旦阻まれながら、突如雪が止んでにわかに空が晴れ上がり、無事神社に辿り着くと、出迎えた宮司に「お呼ばれなすったね」(本当は奈良弁だと思う)と開口一番話かけられる。奇しくもその時は、神社に秘蔵される「石笛」の御開帳の日だったそうだ。

その石笛というのが、数万年前に宇宙から飛来した隕石だか隕鉄でできているのだという。それにぽつりと小さく深い穴が空いているだけ。その穴は、海中に住むザザムシだかフナムシみたいな虫が、数万年かけて少しずつ削りとってできる。選ばれた霊能師は斎戒沐浴して、霊感だけを頼りに、波打ち際に打ち寄せられたこの石笛を間違いなく拾い上げるのだそうだ。何年かに一度、この石笛を拾い上げるのだという。そういう石はいっぱいあるのだろうか。

年に一度、祭礼として境内の石舞台の上でこの笛を吹く。時間は必ず真夜中3時から5時の間と決められている。他の時間に笛を吹いてはいけないのだそうだ。吹くのは霊能師だが、彼は笛の吹き方はおろか、音楽の心得はまったくないのだという。にもかかわらず、その笛を吹くことに決められている。B氏は好運にもこの祭礼に立ち会うことができ(通常外部の人間は決して立ち会えないそうだ)、夜3時に霊能師が厳かに笛を口に当てる。最初何も聞こえない。そのうち、いわゆる笛の音とは似ても似つかない、奇妙な音がかすかに聞こえてくる。と思うと笛の音がどんどん高く大きくなり、辺り一面にキーンという物凄い怪音が響き渡って、B氏を含め居合わせたわずかな人達が思わず耳を塞いでしまう。そのうち笛の音は千変万化し、それに陶酔するうちにいつの間にか儀式の終る時間が到来し、再び笛の音がゆっくりと低く弱くなって、はるか遠くに消え去ったと同時に東の空が薄明るくなってきたのであった(何を描写しているのだカネゴン)。

呆然としたままB氏は帰京し、霊能師に事の次第を話すと、一言「録音しなさい」。

翌年再びB氏は録音スタッフを連れて奈良を訪れ、渋る宮司口説き落して、この音を残らずオープンリールに収める。また帰京して霊能師に尋ねると、「金(きん)だ」。「金にこれを封じ込めなさい」。

どうやらゴールドディスクにしろということなのではないかと考え、プレスの準備をするB氏。そこで、何枚プレスすればいいのかと思い、また尋ねると、「2000枚」とそれだけ言い渡される。

こういういきさつでこのレコードは世に出たのだそうだ。タイトルもレコード会社も忘れてしまったので、どうやって検索すればいいのやら。そこでレコードの権利を巡って一悶着あったとも聞いた。

そこに居た誰かが「そのレコード、ここにあるんですか?」と尋ねると「ある。でもこんな時間(明け方近かった)にこういう状態でこれを聞くとよくないことが起きる」と言われ、ついに一度もかけてくれなかった。このレコードを愛聴する某社社長は、やや頭が天国に近付いているのだが、このレコードから発せられるバイブレーションに病み付きなのだそうだ。

うーんやっぱり訳がわからない。聞いていた時は「未知との遭遇」みたいな感じだったのだが、こうして書くと只支離滅裂だ。神社に近付くと気分が悪くなるのは、近鉄線が振り子式電車なのでは。宮司も来る人全員に「お呼ばれなすったね」とは人の悪い。ちょろいものだ。もしかしてかつがれた?といいつつカネゴンも思い出せない個所にはほどよく嘘を混ぜているので人のことは言えない(きんどーさん口調が移ったか)。