カネゴンはかれこれ2回、足の爪が剥がれる事故に遭った。皿洗いのアルバイトをしていたときに履かされた長靴が恐ろしく小さく、そのまま作業している間にかなり弱っていたらしい。翌日、ゴム草履で自転車に乗ろうとしてうっかり車体を爪先で蹴ったとたん「カシャ」という音がして爪が落ちた。出席日数が足りなくなりそうだったので流血したまま授業に出たところ「病院に行け」とストレートに叱られた。

二度目は吉祥寺の音楽スタジオで。シンセサイザーを運び込もうとして手を滑らし、親指の爪のつけ根に落してしまった。痛みはそれほどでもなかったのだけど、靴の中で指を動かすとぬるぬるする。「ああ、出血している」と思った途端カネゴンはその事実に参ってしまって貧血を起こししゃがみこむ。崩れ落ちながら、きついコルセットを装着したベルサイユ宮殿あたりの貴婦人が何かにつけて「ああ」と貧血を起こすシーンを思い出し、こんな感じなのだろうかと想像するに至る。

しかも思い返せば、カネゴンはそれ以前に足の爪を2回手術していた。爪が肉を巻き込んで陥入爪(かんにゅうそう)という症状になり、膿みただれて痛くて歩けなくなった。その1度目の手術ではよりによって、麻酔が効かないうちからてきぱきと切開されはじめ、「先生、しゃれにならないぐらい痛いんですけど」とうめくと「うるさい!」と一喝され、あまりの不条理さにブルースクリーンと化す。後日怒り狂ったカネゴン父がどなりこみ、平身低頭のドクターが「次回は無料で手術しますから」と言った由。カネゴン御免こうむり、2度目は別の病院にした。痛みに耐えられないようでは戦場の兵隊さんに申し訳ないというよりは、騒ぎになって恥ずかしかったため。

そんなこんなで、今でも足の爪を切るときは細心の注意を払っている。カネゴンがサッカーに限らずスポーツ全般に一切手を出さないのはこの辺にあるのかも。