後期に軽薄な企画を乱発して今や見る影もない「別冊宝島」シリーズの中に、「異人たちのハリウッド」(映画宝島)という極めて濃厚かつ優れた企画の本があり、カネゴンはこの本を繰返し繰返し読んでいた。基本的には映画の話なのだけど、日本(特に関東エリア)にいるとなかなか意識できない民族問題を、映画というテーマに絞り込むことで、この扱いにくい問題を上質の読み物として成立させている。企画の主力であった、明治大学アメリカ文化を研究する越智道雄教授の一連の文章は今読んでも古くなっておらず、民族問題がどれほど根が深い問題であるかを見せつけてくれる。あの映画秘宝のすべての原点がこの本にあり、カネゴンにとって映画秘宝のすべての号はこの本を補完するためにあると言ってもよいぐらい。

その本の片隅に「プロレスは民族の祭典」というコラムがあり、プロレスラーがほぼ例外なく少数民族の出身であること、その出自と異なるアイデンティティーを名乗ることが多いこと(力道山もそうだし、ナチス風の悪役を演じているのが東欧出身のレスラーだったりするなどの皮肉な出来事もあったらしい)など、梶原一騎以外でプロレスを知らないカネゴンにも深く印象を残した。あえて書かないので実物を手に入れて読んで欲しいのだけど、史上最強とうたわれた鉄人ルー・テーズの高潔な人格をかいま見せるエピソードではちょっと泣きそうになった【比べるべくもおれカネゴン】。

早々につぶれた「映画宝島」は、あの町山さんの宝島時代の仕事であったにもかかわらず、確か「異人たちのハリウッド」のみ、奥付けに町山さんの名前がなかった(他の映画宝島には編集担当としてクレジットされているのだけど)。発行時期をちゃんと調べたら違うのかもしれないけど、もしかすると、この本の企画によって逆に町山さんが大いに刺激を受けたのではないかとこっそり考えている。他の別冊宝島はともかく、映画宝島のシリーズは一つ残らず傑作だったと信じている。

初期の映画秘宝の後書きで、町山さんが「SPA!および同業他者に告ぐ。今度企画をパクったらただではおかない」と書いていて、そう言えば当時の別冊SPA!で映画を特集していた号があったことに思い当たった。スーパーマン役のクリストファー・リーブがあまりにはまり役だったせいで、その後どんな映画に出演してもスーパーマンが演技しているようにしか見えなくなったなどのネタがあったけど(クリストファー・リーブ落馬事故に遭う前の頃)、あの辺がパクられたのかもしれない。