遠い昔、学校帰りの書店で立ち読みしたアングラ雑誌で初めて舞踏家・大野一雄の写真を見たとき、今で言う精神的ブラクラを目撃してしまったような衝撃を受ける【癖になるとはおれカネゴン】。
やせ細った皺々の爺さんが暗闇で白塗りの女装をして踊り狂う姿から、てっきりかわいそうな人を面白半分に写真に撮ったのかと思い、当初本気で憤慨した覚えがある【青い果実とおれカネゴン】。説明文も何もなく、おびただしい写真だけが見開きででかでかと掲載されていたので、お釈迦様でもこの謎かけを解くのは難しかったと思う。少なくとも、こんな人が夜道の暗がりから飛び出してきたらカネゴン確実に失禁する【座ったままでおれカネゴン】。
カネゴン大野一雄が動いているところを見たことがないので何の判断も下せないのだけど、あれほどたくさんのファンがいるところからすると、きっと動いているところは物凄いのだろうとぼんやり推測。舞踏がどんなものかカネゴンなりに決め付けさせてもらうと、少なくともテクニックとか必殺技とか理論で勝負する世界ではなさそうなので、たぶん舞台に立ったときに(何らかの動作をしようとしまいと)客の視線をライバルよりも集めてしまう方が勝ちなのだろうと推測【勝った負けたとおれカネゴン】。
きっと芸術家に唯一必要な「説得力」を体内に高濃度に蓄えているに違いない。本人の存在自体が、希釈しなければ危険で扱えないほどの、芸術の原液みたいなものかもしれない。写真のマジックにカネゴンがやられただけなのかもしれないけど、少なくとも、ネタに困った写真家が土下座してでも素材として使いたくなる人物であることは間違いない。
大野一雄は昨年100歳の誕生日を迎え、脳梗塞認知症などで手足もほとんど効かない状態にもかかわらず、まだ踊っているとのこと。カネゴンは見に行かないけど、こうなったらとことんまで突き進んで欲しい。