吉田伸夫「宇宙に果てはあるか」は、ドタバタ喜劇のように発展を続けてきた20世紀の宇宙物理学を手に取るように知ることのできる抱腹絶倒の名著。著者は主要な論文にひととおり目を通しているらしく、通り一遍のポピュラーサイエンス本では得られない科学者の細かな息づかいまで感じ取ることができる。データの乏しい中、どの学者も取りあえず思いついた説は片っ端からぶちあげては直後にガンガン頭をぶつけていることを痛感【ぶつけることならおれカネゴン】。大多数の学者たちが計算違いをしまくっていたことも知ってカネゴンに安らぎがもたらされる。

  • アインシュタインシュヴァルツシルトによる「事象の地平面」説が大嫌いで、わざわざそれを否定するための論文まで書いたが、びっくりするぐらい初歩的な誤解を犯していて全然反論になっていなかった。
  • ビッグバン説(当時は「火の玉宇宙論」)で知られるガモフの当の論文は計算違いを含む勘違い誤解が山盛り。当時ヨーロッパの科学者が聖書に逆らうことにまだ何となく気が引けていた時代に宇宙創世理論に初めて切り込んだパイオニア精神だけで物理学史上の重要な論文とされている。
  • ベーテによる1939年の論文「恒星内部でのエネルギー生成」は、原子物理学が未熟な時代に原子核に関する知見を総合し、理論的計算と観測値の比較まで綿密にやりとげた見事な内容で、物理学論文の模範といえる。
  • 定常宇宙論の挫折ばかりが有名になってしまったホイルは、その一方で恒星での物質合成に関する論文を共同で著して不滅の業績を残している【今頃知ったおれカネゴン】。