インフルエンザ21世紀 (文春新書)」という、Tumblrに流せばたちまち100人単位でリブログされること請け合いの記述がどのページにも満載されている傑作ドキュメンタリーで、「クロスロード」という防災シミュレーションゲーム(テーブルゲーム)があることを初めて知った。以下同書より多少かいつまむ。シチュエーションは地震発生後。

「あなたは、食料担当の職員。被災から数時間。避難所には3000人が避難しているとの確かな情報が得られた。現時点で確保できた食料は2000食。以降の見通しは、いまのところなし。まず2000食を配る? Yes or No?」
あなたはYesかNoのいずれかのカードを出さねばならない。それ以外の回答は認められない。プレイヤー全員がいっせいにカードを開くと、回答が予想以上にばらつくことに誰もが驚く。
「クロスロード」とは決断を迫られる分岐点を表す。このゲームは予想以上の反響を呼び、「感染症編」「食料安全編」など多くのバリエーションが生まれた。
普遍的な問いかけの文章はプレイヤー個々人の震災の記憶を呼び覚まし、具体的なエピソードとして切実に訴えかけてくる。出題の内容は、すべて阪神大震災で実際に起こったことだ。当時対応に当たった職員の中には、涙を流しながらこのクロスロードをプレイした者もいた。
このゲームがおもしろいのは、他社の立場でヴィヴィッドな事態に直面できると言うことである。たとえ新聞記者であっても、このゲームによって保健所長や病院長にもなれる。

このゲームに最適解はあるのだろうか。実際に行われたことが正解なのか。条件を設定すれば最適解を導きだせるのか。ゲームの作者たちすら、当時は「よくわからない」と思っていた。
しかし現在では、はっきりした答えがあるという。それは「最適解は存在しない」というものであった。「クロスロードの目的は正解を出すことではない。問題の背後にある構造を学ぶことが目的だ。」

こうした問題は次のようなフェーズに分かれる。

  • 「真理へと至る対話」専門家の意見が一致し、真理を導きだせるフェーズ。
  • 「合意へと至る対話」専門家コミュニティで決着をつけられないフェーズ。妥協点を見つけて合意に持ち込むしかない。
  • 「終わらない対話」その合意すら、一時の錯覚や幻想である可能性を伴っており、常に見直し続けないといけないフェーズ。

こうしたゲームを小中高の社会科の時間にまるまる充ててしまってよいと思う。近い将来、日本全国津々浦々の小中高校でカードと悲鳴と怒号が飛び交う様をカネゴンありありと幻視しています。