カネゴンは恐ろしくてたまらない

どうして

最果ての宇宙空間の
星どころか分子一つ転がっていない
極めつけの真空中で
たった一粒の電子をゆさぶるだけで
何もないはずの真空がそれに反応して
電界と磁界を生じるのか

そうして生じた電界と磁界が
実数軸と虚数軸を行き来し
互いに相手をかきたてながら
まるで真空が
硬くて冷たい超電導体であるかのように
距離の自乗に反比例しながら
四方八方へと最大速度で拡がって
いかなる地点へも最終的に到達するのか

空気を伝わる割れ鐘の音は
いつしか減衰してたちまち雑音にうずもれ
観測不能になるというのに
電界と磁界のざわめきは
どれほど遠くにあっても
星を見る者たち一人ひとりに
ひと粒ずつのか弱い光子となって届けられるのか

それでいてそれらの電界と磁界は
いかなる場合も相対性を維持し
ドロリとした濃密なエーテルとは
似ても似つかない振る舞いをするのか

生まれたばかりの電界と磁界は
いったいどんなわけがあって
加速という過程を経ることなく
振動数に比例することもなく
誕生の瞬間から最大速度を得るのか

そして重力にいたっては
何かが振動しているかどうかもわからないのに
質量であるというだけで
真空に反応を呼び起こし
自分で自分をかきたてながら
電界と磁界よりずっとずっとささやかに
その力をあまねく伝えるのか

そのかよわい重力が
強大な質量をもってして
やっとのことで干渉できる
電界と磁界の軌跡を
たかが誘電率透磁率の異なるだけの
ありふれた透明な物質が
いとも簡単に曲げることができるのか

それらの振る舞いは隅々まで
精緻を極めた方程式で記述されていながら
目も鼻も口もなく
押し黙ったまま
ただひたすらに
電界と磁界と重力場の
どんな小さなゆらぎにも
敏感に反応する真空が
一体何者であるのかを
真空はどこから現れ
何によって支えられ
その背後に何があるのかを
なぜ
誰ひとり明言してくれないのか
安心させてくれないのか

カネゴンたちはからかわれているのだろうか
あざ笑われているのだろうか

カネゴンたちは世界のいったい
何分の一をわかっているのだろうか

どうして皆は恐ろしくならないのか
いてもたってもいられなくならないのか

真空中を光と重力が平然と伝わる
ただそのことがカネゴンにはとことん恐ろしい