新聞配達の頃:

住み込みの大人の大半が、創価学会員だった(配ってたのは朝日)。しかし学生の自分たちの将来に配慮してか、勧誘されることはなかった。その代わり、聖教新聞を配ってた別の販売所の販売員が、写真専門学校に通っていたKくんをしつこく誘い、「どうせ幽霊会員だろ」と承諾した翌日に巨大な仏壇が3畳間の住み込み部屋にドーンと届けられ、Kくんは配達中に販売員とストリートファイトに及ぶ(以前も書きました)。

学生はカネゴンの他にそのKくんとアニメ専門学校に通うOくん、後は女の子が2人。OくんよりもKくんの方が圧倒的に漫画がうまかったのがおかしかった。その代わりOくんはビートルズマニアで、貴重なレア版をいろいろ聴かせてもらった。Kくんはバイク好きで、月刊オートバイの「俺は天下のクラッシャーマン」(事故った瞬間の写真投稿コーナー)を見せてもらい、カネゴン笑い転げる。

Kくんがファミコンを購入。しかしTVがない。カネゴンが近所でTVを拾ってきてつなぐが、電子ビームの三原色のうち青が壊れているらしく、かなり変な映り。当時のカネゴンはいろいろクソゲーをつかんだ。このTVで最初のドラクエIをやり、しまいには販売所の大半が3畳間に押し掛けて盛り上がる。終了したのがカネゴンが受験する朝で、一同感動に打ち震えるも当然受験には失敗。

カネゴンが激安ビデオデッキを購入し、同じTVでアダルトビデオを皆で視聴するようになる。しかしカネゴンはアダルトビデオの動向に暗く、借りても借りても外しまくり、いやになる。当時借りた「日本拷問史」は本当にひどかった。アダルトビデオに詳しい人が借りたものを見せてもらう方が遙かに効率がよいことを知り、以後自分ではビデオを借りなくなった【金も払わずおれカネゴン】。

店長は伊武雅刀にそっくりで顔色が悪く、番頭さんは巨人の堀内みたいな顔でとてもいい人。彼女が創価学会で、結婚に踏み切れず悩んでいた。一番年かさのおじいさんは小指がなかった。加藤茶に似た人はとてもおとなしく、他に慶応卒の人もいた。後から入った痩せた中年の人は、まるでつげ義春の漫画に出てくるようなうらぶれた感じで、当時のカネゴンは「自分もこういう風になってしまうのではないか」と密かに恐怖していた。

トラックの運転手だったTさんは、本当にちばてつやの「男たち」に出てきそうな偉丈夫で、本名を偽っていた。喧嘩がこじれて縛り上げられ、相手のマンションに監禁された話をしてくれた。カネゴンが電気工作が好きと聞いて、CB無線を改造してくれとしつこくせがまれる。カネゴンにはそこまでの技量もなく、無線の改造が違法と知っていたので断るのに往生する。カネゴンに「学会の女と結婚するもんじゃないよ」と語ったこともあった。

住宅機器のセールスマンだったMさんは一番陽気な人で、当時の豪華な暮らしをいろいろ話して聞かせてくれた。銀座で毎晩100万円をばらまきながら豪遊していたらしい。しきりに「3Pはいいよー」と話し、カネゴン困り果てる。

近所の別の朝日の販売員だった学生は、妙にカネゴンと姿形が似ていたが、あるとき配達中に「今日痴漢してきちゃった、へへへ」と明るく語り、カネゴン返答につまる。

以前日記に書いたかもしれない。あるとき、やめさせられた元店員がバットを持って「店長を一発殴らせろ」と押し掛けてきた。上で昼寝していたカネゴンは、下の騒ぎで目を覚ますも駆けつけたときには取り押さえ完了していた。

途中から入ってきた陽気なおじさん(またすぐいなくなってしまったけど)は、缶入り飲料の自動販売機の「目押し」が神業的にうまく、見ている目の前で100円のみを投入して次々に缶コーヒーを出し、カネゴンたちにおごってくれた。当時の当たりくじつき自動販売機は牧歌的で、こういう目押しが実際に可能だった。このおじさんの活躍が原因か、その後あっという間に目押し不可能な自動販売機のみになってしまった。

拡張員は販売店とはまったく別の系列で、恐ろしく下品な人が多かった。断られたときに相手の玄関に小便を撒きちらすのが半ば習慣化し、カネゴンは何度となく代わりに謝りにいくはめになる。系列が分かれているのはトラブル時に新聞社と販売店がしらを切るためだということを知る。問題を起こしても、すぐ別の拡張会社に移ってしまい、決して改善されることはないのだそうだ。一人若い拡張員がいて、甘いマスクと話術で主婦にもて、月に数日拡張するだけで70万ほど稼いで残りの日はパチンコをしていたという。拡張員が取ってくる物件には問題が多く、三文判を買っては架空の契約書をでっち上げることもしばしば。おかげでカネゴンは何度となく空き家に配達し続けては集金時にのけぞるはめになる。

他の学生は全員バイクで配達していたが、カネゴンは無免許のため一番広いエリア(足立区は畑が多い)を自転車で配っていた。ある雨の日の夕方、空き地で水たまりに車輪を取られてこけ、新聞を見事水たまりにぶちまけてしまう。まるで「どっこい大作」のワンシーンだが、当人はたまったものではない。やけくそでそのまま泥だらけの新聞を配達するが不思議に一件も苦情が来なかった。