今ではすっかり整備された新宿駅南口の、甲州街道をはさんだ場外馬券場の向かいのあたりは、かつて堀っ立て小屋みたいな呑み屋が、絵本「ちいさいおうち」のようにビルの谷間にひしめいていた。

昼下がりにカネゴンがそこを通りかかると、呑み屋の中から年の頃40ぐらいの、立派な入墨の入ったヤクザがぬっと出てきて、いきなり服を脱ぎだした。すっぽんぽんになった後、仁王立ちになって辺りの通行人を睨みつけていたが、大事な部分に燦々と春の日ざしがあたっているにもかかわらず、おびただしい通行人のほぼ誰も気付いていなかった。カネゴンはどきどきしながら、絶対に視線を合わせないように上から下までまじまじと遠くから見てしまった。あれは何だったのだろう【命拾いのおれカネゴン】。