カネゴンが繭(大学)の頃、いろいろあってアパートの電気を止められたことがあり【ガスも止まったおれカネゴン】、実家に救援を求めるためにその状態で電話をかけなければならなくなったことがあった。当然ながら電気と電話は電源が別供給なので電話線自体は生きていたのだけど、持っていた留守番電話に電力がこないので、ボタンを押しても発信されない。ただし受話器を上げるとトーンは聞こえる。

内心焦ったカネゴンは、大昔に読んだ図鑑と電電公社のパンフに書いてあったステップバイステップ式電話交換機の原理とアナログ電話機の原理を必死で思い出し、もしかするとこの状態でも電話がかけられるのではないかと思いつく【部屋は真っ暗おれカネゴン】。

アナログの黒電話は、フックを上げると回線がつながってトーンが聞こえ、ダイヤルを回してから戻るときにそのトーンをパルスで区切る。パルスはダイヤルの数に応じて発信される(「0」はパルスが10回)。パルスを1つ送る、つまりダイヤル「1」を回すということは、フックを1回指で押してすぐ離し、回線を一瞬だけ切断することと同じはず。つまり、番号に合わせて素早くフックを押し、番号と番号の間に適切な待ち時間を置けば、原理的には電話をかけられるはず。

闇の中、カネゴンは番号に合わせて必死でフックをクカカカと押しては1秒待ち、クカカカクカカと押しては1秒待つことを繰り返す。遠距離電話なのでゼロが多いのが恨めしい。真夏の夜で汗が止まらない。何度か試行錯誤の末、見事に電話が通じる。この喜びを誰かと分かち合いたいばかりに電話の向こうにいる親にそのことを話した直後雷を落とされた【わしらの代わりにおれカネゴン】。