サイゾーの対談(2008年五月号,P140)から珍しくちゃんと引用(多少改変)。テーマは「少子化」。ゲストは山田昌弘(中央大学教授)。

「女性が生涯で生む子どもの数が平均して1人と少しになった」と聞くと、一人っ子が増えたと考えがちですが、実際はそうではない。
結婚して二人の子どもをもうける、という考え方はそれほど変わっておらず、それ以前に結婚できない人が増えているんです。つまり、日本の出生率の低下は、家族の格差を伴って生じている。むしろ誰もが結婚して1人の子どもをもうけるという傾向だったら―ドイツなんかはこれに近い形ですが―それほど大きな問題ではない。
結婚して子どもを持てる層と、そうでない層に分かれてきているということが問題ではないかと考えています。

結婚したくてもできない人の方が多いんです。どんな調査をしても、男女ともに90%が18〜35歳に結婚したいと答えている。結婚願望は衰えていない。
80年代半ばは、未婚男性(学生を除く)の9割は正規社員だった。しかし05年には、非正規社員の未婚者が3割を超えました。また、未婚の女性(学生を除くも)非正規社員が4割を超えている。非正規社員同士で結婚したら先が見えてくるし「そうはなりたくない」と思うわけです。
これに日本独自のパラサイトシングルの問題が絡んでくる。
欧米では、非正規雇用が増加しても少子化には結びついていない。ワーキングプアに関するアメリカの論文を読んでいて「お金がないから独身でいられない」という記述に何度もぶつかりました。欧米では親との同居が一般的ではないので、低所得者は一人では暮らせなくなる。それゆえに、何が何でもパートナーを見つけようとします。

「恋愛が自由化された」ということも重大な問題です。社内結婚や見合いという制度が崩れ、就職活動だけではなく結婚活動も必要になってしまった今、コミュニケーションを学ぶ機会のなかった人は恋愛も結婚もできなくなりました。

実は少子化といいつつも、東京では子どもの数はほとんど減っていません。一番減っているのは青森県で、ここ10年間で子どもの数が25%減っています。合計特殊出生率とは、人の移動を考慮していない数字ですから。地方出身者の若い女性がドンドン都会に出て行って、そこで子どもを生むので、結果的に都会では人口水準が維持されるけれども、地方では極端な少子高齢化が進むという事態が生じているのです。

都会に住む人は一人残らず地方の生き血を啜って永らえていることを知る【赤い唇おれカネゴン】。

日本では「親たちが子どもに対する愛情を失ったから、生まなくなったんだ」という俗説があります。しかし実際はその逆で、「子どもに惨めな思いをさせたくない」という愛情過多が背景にあると考えます。
中でも最たるものが教育です。高額な大学の授業料を親が全て払う国は、日本と韓国ぐらい。そして両国は、まさに少子化が起こっている代表格です。どんな経済状態でも、将来に機会の均等を得られるだろう水準の教育が保証されれば、子どもの数を絞ったり、そもそも結婚相手を吟味しすぎたりするケースは減っていくのではないでしょうか。

少子化の対策は次の4つです。

  • 若者の収入・雇用の安定化
  • 一定水準の教育の保証
  • 男女共同参画社会の推進
  • コミュニケーション能力の向上

(中略)これらの対策は全部必要です。逆に言うと「これさえやれば少子化は食い止められる」というような決定的な方策はありません。

コミュニケーション能力とは、面白い話をすることではなく、相手が何を望んでいるかを察知する能力です。昔は「男は仕事、女は家事」という通念に従っていれば相手の求めるものを考える必要はなかった。しかし現在は価値観が多様化した中で、お互いに選びあって新しい生活を築かなければならない。日本社会では、そうしたコミュニケーション能力を身につける場がないことが問題です。

カネゴン大反省。
考えようによっては、歌が詠めないと結婚もセックスもできなかった中世の日本みたいな感じに今なりつつあるのだろうか【立ちて枯れるはおれカネゴン】。

女性の間でも格差が広がっています。むしろ男性より激しい。しかし(それを擁護すべき)フェミニズムの人たちは、もともと能力の高い人たちですから、そのことに関心が薄い。あまり大きな声では言えませんが、頑張ってきた自負があるだけに、仕事能力の低い女性に対して厳しいんですね。一番大切なのは、それほど仕事能力の高くない女性の就労機会を確保することですね

かつてのカネゴン問いかけに対する回答を得られたような気持ち。女性に限らず、日ごろ皆様がいまいましく思っている「仕事の出来ない人」をさくさく切り捨てると、巡り巡って我が身に帰ってくるということでよいだろうか。異論がなければ、無駄だと思って切り捨てたものの方に本質があるという痛快な結論に持っていきます。
カネゴンは、仕事のできる人は仕事の出来ない人を養う義務があると思っています。