むさ苦しい男を精密に描かせたら日本一むさ苦しい谷口ジローの「神々の山嶺」全5巻を漫画喫茶で一気読み。カネゴン谷口ジローの絵のむくつけき登場人物(フェロモン過剰なのになぜか美人でない女性も含む)が好きだったのだけど、坊ちゃんの時代とかのあたりからそういう婦女子に受けなさそうな要素が急速に漂白され失われて非常に悲しかった覚えがある。そればかりか、人物までがそれにつられてどんどん無気力になりため息ばかりつくようになっていた。一時期は、この人が鬱病になってしまったのかとカネゴン見当違いな心配をしてしまいました。

それがこの漫画ではそのむさ苦しさを一気に取り戻していてカネゴン一安心。獣臭が立ち込めているような錯覚すら覚えた【風呂の嫌いなおれカネゴン】。漫画喫茶の冷房が物凄く強かったせいもあり、細密極まる冬山の描写がいっそう堪えた。アウトドア好きがこれを読んだら一発で轟沈すると思う。とにかくこの人にはむさ苦しい漫画以外描かせてはならないとすら思う【手打ちにいたすおれカネゴン】。

後、セリフが実に枯淡にして流麗だと思ったら原作: 夢枕獏だった。この人が重症の格闘技マニアということ以外に何一つ知らないカネゴンだけど、冬山で遭難中にかじかんだ手で書きつけるメモの内容が徐々に正気を失っていくアルジャーノンのような描写といい、さすが本職と思わずにいられず。ただ最終巻はだいぶストーリーがほつれていた(10年間エベレスト登山禁止をくらったはずなのにまたすぐ山に登れた、1つしかないカメラを異なる人物から2回ももらった、など)。